読者の知りたいこと
レッドウィング9268は、1980〜90年代のエンジニアブーツのディテールを再現した復刻モデルとして発売されました。
残念ながら2024年に廃盤が確定。本記事ではその経緯についても触れて解説します。
レッドウィングの名作「エンジニアブーツ2268」の歴史
なぜ2268の話から始まるのか?...と疑問に思われた方も多いかもしれませんが、
9268を語る上で2268の歴史は避けては通れません。
なぜなら後述するように9268は1980〜90年代の2268の復刻モデルだからです。
19世紀半ばからアメリカで未開拓の地を目指した西部開拓が始まります。
ほぼ時を同じくして蒸気機関車が実用化され、20世紀初頭にはアメリカ中に鉄道網が広がり、アメリカの国土は急速に拡大していきました。
こうしたアメリカの発展を支えたのは鉄道機関士(レイルロード・エンジニア)と呼ばれるワーカーです。彼らの仕事は過酷かつ危険なものでした。
そんな彼らの足を守るために作られたのがエンジニアブーツです。
紐がなくひっかけや巻き込みによる事故を防ぐことができ、コード(繊維)を混ぜて作られたソールは油が散った地面でも滑ることがありません。
また、スチールトゥと呼ばれるつま先に入った鉄のカップはワーカーの足元を危険から守りました。
20世紀半ばに入ると、安くて機能的なレースアップタイプのワークブーツが主流になり、それまでエンジニアブーツを作っていたメーカーは次々と製造を中止しました。
そうした中でも、レッドウィングはワークブーツのリーディングカンパニーとして、エンジニアブーツを製造し続けた数少ないメーカーです。
やがて20世紀後半には日本でも販売されるようになり、マーロン=ブランド主演「乱暴者」をはじめとしたアメリカ映画の影響を受けた日本の若者を虜にします。1985年からは日本で渋カジファッションが大流行し、レッドウィングが一世を風靡します。
レッドウィングが販売するエンジニアブーツ"2268"は、まさしくこの時代を象徴するアイテムでした。
紐の巻き込みが起こらないため安全で、スチールトゥが足を守ってくれるといった理由でバイカーにも好まれました。
かつての2268は茶芯と呼ばれる、表面の黒い塗膜が剥がれると茶色が出てくる仕様でした。
また、現行のものよりもシャフトが細く作られていました。
これらの仕様は製品仕様のアップデートとともに失われていき、現行仕様の2268では茶芯が出ず、シャフトは着脱を考えて太めに設計されています。
しかし以前の仕様に魅力を感じるファンも多く、それがヴィンテージと呼ばれるようになった今の時代に、1980〜90年代の2268が中古市場で人気を博しています。
そんな市場からの声を受けて2014年に登場したのが、本記事で紹介している9268というわけです。
レッドウィング9268は1980〜90年代の2268の復刻モデル
レッドウィング9268は、1980〜90年代の2268のディテールを再現した復刻モデルとして発売されました。
皆さんPT83、PT91という名前を聞いたことがありますでしょうか?実はこれらは品番ではありません。品番は全て2268なんです。
2268の中でも1980~1990年代に発売されていたヴィンテージの通称です。
T:Test(テスト)
91:91年
アメリカの工業規格であるANSI規格に1991年に合格したスチールトゥを表す品番が「PT91」。
タグにPT91と書かれていることからPT91と呼ばれています。
ではなぜこれらの名前をよく聞くのか。それは人気が高いからです。
PT83やPT91には次のような特徴があります。
これらのディテールは現行の2268には採用されておらず、その人気ゆえに復刻を望む声が絶えませんでした。
そこで2014年に満を持して復刻登場したのが今回紹介している9268です。
ここからは、これらのディテールを1つずつ、実際の写真をお見せしながら解説していきます。
茶芯レザー
茶芯とは
茶色い革の表面を黒く染色した革を「茶芯」と言います。
茶芯はヴィンテージのレザーアイテムによく見られる特徴です。元々茶芯とは生産性の合理化のためになされていたもので、一旦すべての製品の革を茶色で作り、黒い製品を作るときはその上を黒く染色する手法です。
茶芯のレザーは使い込むほどに表面の黒い部分が擦れて地の茶色が浮き出してきます。この黒と茶色のコントラストが美しい経年変化をもたらすのです。
9268は茶芯レザー「ブラック・クロンダイク」を採用しています。断面や裏革が茶色いことが分かると思います。
レッドウィングのブラックレザーも1990年代までは茶芯の個体が存在していました。しかし現行のブラックレザーは茶芯仕様ではなく、革の芯まで黒い「芯通し」と呼ばれるものです。
茶芯の復活を望む声は多かったものの、当時使われていた表面の黒い塗膜は有機溶剤系塗料であり、現在の環境基準では使用できません。開発にあたり度重なるサンプルを経て、水性塗料でも強力な塗膜を作れるようになり、ようやく当時の雰囲気を再現することに成功しました。それがレッドウィングの茶芯レザー「ブラック・クロンダイク」なのです。
レッドウィングの茶芯は特に80~90年代前半に多いようです。PT91の後期モデルだと茶芯ではなく現行と同じ芯通しのレザーもよく見られます。PT91などのヴィンテージを買われる方はよくご確認のうえ購入することをおすすめします。
ストーブパイプ(STOVEPIPE)
シャフトとはブーツの履き口の筒のことです。
90年代までのレッドウィングのエンジニアブーツは、シャフトが現行のものよりも細く設計されていました。この細く絞られたシャフトをレッドウィングではストーブパイプと呼んでいます。
現行のエンジニアでは履きやすさを考えてシャフトを太く設計しています。
下の写真はストーブパイプ9268(左)と現行品2268(右)の比較写真です。9268はシャフトが細く、シャープな設計であることが分かります。
下の写真は復刻版である9268(左)と90年代ヴィンテージのPT91(右)の比較写真です。
9268はPT91と同じシルエットをしていることが分かります。
細いシャフトにはメリットとデメリットがあります。
【メリット】
- シルエットがきれい
- パンツの裾を下ろしやすい
- 足がしっかり固定されて歩きやすい
- シャフトにエイジングが出やすい
【デメリット】
- 履きづらい
- ブーツインしづらい
- シャフトが足に当たって痛くなりやすい
- 新品は細くて足が入らないため、ブーツストレッチャーが必要
ブーツストレッチャーについては本記事の2.実寸通りのジャストサイズで買うべし!と「エンジニアブーツの甲を伸ばせる!ブーツストレッチャーの使い方を解説」の記事で詳しく解説しています。
また、当ブログでは他にもレッドウィングのストーブパイプのエンジニアを紹介しています。
気になる方はチェックしてみてください。
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プレス式バックル
1990年代のプレス製法も再現されています。
細部まで当時を再現してくれるのはありがたいですね。
地味ながらも復刻を語る上では欠かせないポイントです。
シャフトの刻印
右足の内側に「RED WING」の刻印があります。
ヴィンテージに見られる特徴的なディテールの1つ。
細かい点まで再現しており、復刻版としての完成度の高さが分かります。
裏革の印字
現行仕様のエンジニアはタグに商品情報(品番、ワイズ、サイズ等)を記載していますが、
復刻版の9268は裏革に印字で記載をしています。
見えない所までしっかり当時を再現しています。
ヴィンテージ仕様の箱
なんと箱までも当時の仕様を復刻。
貴重なデザインなので、箱も大切に保管しておきましょう。
2966という兄弟モデルの存在
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9268と同時期に発売された2966というエンジニアブーツがあります。
2966は革がブラッククロンダイク(茶芯)、ストーブパイプ(細いシャフト)、プレス式バックルと9268とほとんど同じなのですが、1点だけ大きく異なる箇所があります。
それはスチールトゥではない(つま先の鉄カップが入っていない)こと。これによりつま先が足に沿うようにつぶれて低くなっていくという独特の経年変化を見せます。スチールトゥ仕様の9268には見られない特徴です。
このように人気商品であったものの、ノンスチール仕様はレッドウィングでは異色の仕様だったからか廃盤に。販売時期が短く、知っている人も多くない品番です。9268とよく似ているため、今でも混同されやすいモデルです。
実寸通りのジャストサイズで買うべし!
レッドウィングのエンジニアブーツには50番ラストが使われています。
Dワイズですが横幅もあり、窮屈さが少ないです。
基本的には実寸通りのジャストサイズをおすすめします。
下にレッドウィングのサイズ選びの記事を載せていますので興味のある方はご覧ください。
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レッドウィングのサイズ選びは実寸を基準に!スニーカーとの比較を徹底解説
続きを見る
9268はサイズ選びがよく話題にあがります。なぜなら細いシャフトゆえに足が途中で止まってしまい最後まで入らないからです。妥協していつもより大きいサイズを買ったという人も見かけます。
しかしブーツや革靴は実寸通りのサイズを買うのがベストと言われています。革が馴染んだ時に最高の履き心地になりますからね。
さて、どうすれば良いのか・・・
甲がきついときはブーツストレッチャーで伸ばそう
結論を言うと実寸通りのサイズを買ってください。
なぜならブーツストレッチャーというアイテムを使えばジャストサイズでも履けるようになるからです。
僕もお店で9268を何サイズか試着しようとした時は足が途中で止まって足が中に下りませんでした。試着できなかったんです。
ここまで聞いてこう思われた方も多いでしょう。
しかし大丈夫です。ブーツストレッチャーを使えば試着で履けなかった僕の9268もちゃんと履けるようになりましたから!
ちなみにこのブーツストレッチャー、レッドウィングの公式FaceBookでも紹介されたことがあるので、ちゃんと安全なものです。ご安心を。
ブーツストレッチャーの使い方は下の記事に書いています。
-
エンジニアブーツの甲を伸ばせる!ブーツストレッチャーの使い方を解説
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試着は2268ですれば良い
先述したように9268はシャフトが細くてお店でなかなか試着できないかもしれません。そんなときは2268など現行仕様の足が入れやすいエンジニアでサイズを測ってみて下さい。ラスト(木型)が同じ50番ですので、足を入れた後は同じ形なんです。2268を試着してベストだったサイズ=9268のベストサイズということになります。
それでもきつくて履けない、脱げない…。そんなときに役立つ3つの道具を紹介
ジャストサイズで選んで、ブーツストレッチャーで甲を伸ばした。それでもきつい…。
そんなときに役立つのがエンジニアブーツの3種の神器!
革のすべり剤、ブーツホーン、ブーツジャックの3つがあれば着脱が楽になります。
下の記事で詳しく解説しているのでぜひご覧ください。
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エンジニアブーツが履きにくい、脱げない…。革のすべり剤、ブーツホーン、ブーツジャックの3つで着脱を楽に!
続きを見る
約1年半の経年変化(エイジング)をお見せします
約1年半の経年変化がこちらです。真夏以外の土日で街履きしていました。
街で歩いていたこともありシャフトのうねりと甲のしわが強く出ています。
バイクには乗っていないので全体的に経年変化は抑えめです。茶芯もまだまだこれからでしょう。
【しわ】
ジャストサイズで履いているため、シャフトのうねりと甲しわはしっかり出ています。
シャフトはオーバーハングしてダイナミックな表情になりました。
足に合った部分にしわが入ることで、歩いたときに感じるアッパーの革の硬さが軽減されます。
【茶芯】
街歩きのみのため、茶芯は一部しか出ていません。
頻繁にすれる部分に茶芯が出ています。
履き口の細いストーブパイプをジャストサイズで履いているため、履くときに足と摩擦が起き、茶芯が出てきました。
僕はストーブパイプエンジニアを脱ぎやすくするためにブーツジャックを使っています。かかとに引っかけて使うアイテムのため、摩擦が起きて茶芯が出てきました。
履き込んで味が出てきたら手入れが必要になってきます。
下の記事でブラック・クロンダイクの手入れの注意点と方法を解説しているので、気になる方はご覧ください。
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ブラッククロンダイクの手入れの間違いを指摘!/正しいやり方を教えます!
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2024年に廃盤が確定
2021年頃から、9268で検索すると「9268 廃盤」と出てくることがありました。
レッドウィングジャパン公式サイトにはちゃんとラインアップされているものの、ずっと欠品状態であったことが原因でした。
そして2023年に何のアナウンスもないままひっそりとラインナップから姿を消し、ついに2024年に廃盤が確定しました。
人気の高いモデルなので注文して待っていた方も決して少なくないはず。
ではなぜ廃盤になってしまったのか。その理由は次の3つです。
- 2020年からエンジニアブーツの生産が停止されている
- アメリカ工場の熟練スタッフが大量離職した
- 日本企画の商品(9268を含む)は今後廃盤化が進む流れ
これらについて順番に解説していきます。
2020年からエンジニアブーツの生産が停止されている
福岡のレッドウィング直営店と正規取扱店から、2020年からはアメリカ工場はエンジニアを作っていないと聞きました。
コロナ禍以降アメリカ工場の稼働が抑えられ、エンジニアブーツの製造を停止しています。
再開の目処は立っておらず、定番の2268すらも廃盤の可能性が浮上しているほど。
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アメリカ工場の熟練スタッフが大量離職した
上述の2020年頃からアメリカ工場のスタッフが大量に離職し始めたそうです。
詳細は不明ですが、スタッフと会社の間でトラブルがあったと想定されます。
熟練スタッフの離職はブーツの生産にも影響します。
プレーントゥタイプのブーツは製造に高い技術力を要しますが、それに対応できるスタッフがたくさん辞めていったことで、プレーントゥタイプの生産が困難な状況に。
日本の看板モデル「ベックマンフラットボックス」擁する人気の仕様にも関わらず、このようなことになり、ファンとしては複雑な心境です。
エンジニアブーツもプレーントゥなので、9268もこの影響を受けていたと考えられます。
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日本企画の商品(9268を含む)は今後廃盤化が進む流れ
9268の廃盤決定は時間の問題であると言われていました。
2020頃からレッドウィングジャパンは世界共通モデルの販売に力を入れていくスタンスを取るようになりました。
同じストーブパイプモデルの9269が廃盤になり、さらにはずっとラインナップされていたベージュラフアウトのエンジニア8268ですら廃盤になってしまいました。
元々、ブラッククロンダイクやラフアウトのエンジニアは日本のファンの声に応えて商品化したものでした。
今残っている品番でも、こういった日本企画の商品の廃盤決定は近いのかもしれません。
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レッドウィングから近頃リリースされる新作を見ても読み取れます。
新作アイリッシュセッターが海外準拠のDワイズ(日本はEワイズでの展開が主流だった)で発売されている現状を踏まえると、先述した予想はさらに説得力を増すことになります。
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まとめ
本記事が9268が気になっている方の参考になったら幸いです。
- 9268は1980~90年代のディテールを再現したエンジニアブーツであり、ヴィンテージファンからも人気が高いです。
- 甲がきつくて足が入らないという方はブーツストレッチャーの使用をおすすめします。
- 2024年に廃盤になりました。日本企画の品番の廃盤化は今後も進む流れです。
廃盤なので入手は困難ですが、入手出来たらぜひ自分だけの経年変化を楽しんでみて下さい!